10/02/2011/THU/四十一日目

『金閣寺』12公演目。

人は劇場という空間に何を求めて足を運ぶのだろう?。もちろんそれぞれ求めているものは同じでないと思う。しかし多かれ少なかれ、日常の「マンネリ」から抜けだして、どきどきするような非日常に身を投じたいという欲望を抱えてやってくるのではなかろうか。

だが、舞台に立つ側の人間からすると、こうも毎日、毎日、同じ劇場へ通い、同じ舞台に立ち、同じシーンを見ながら、同じタイミングで、同じ台詞を言い、同じ声を出すことを繰り返しているうちに、いやがおうにも非日常でなければならないはずの舞台が、月〜金で会社に通う勤め人のそれのように、「日常」的に感じられてきてしまうものである。公演を重ねるたびにどんどん進行していくその「平和ボケ」にも似た感覚との闘いが、「金閣寺」のようなロングラン公演に出演する出演者にとっては切実なものになってくる。

そのために私は毎回ほんのわずかだけ何かを変える工夫をする。
それはちょっとした気の持ち方だったり、声の出し方のような具体的なものだったりと様々だ。一昨日(11公演目)の舞台で私のその工夫とは「金太郎」になってみることだった。

金閣を象徴する存在である私は、舞台のラストシーンで体に金色のペインティングを施して華々しく登場することになっている。そのペインティングを施すのはメイクさんの仕事である。しかし一昨日、ラストシーンの出番の準備をする楽屋で、私はメイクさんから筆を奪い、自ら自分の腹の上に「金」の字を書いてみたのだった。

「金」の字を金閣そのものの形に見立て、岡本太郎の躍動感溢れる炎のような文字をイメージしながら、勢いよく筆を走らせる。しかし、鏡に映る自分の腹をキャンバスに思い通りの線を描くのは簡単ではなかった。

私の腹を見て苦笑いするメイクさん。そう、私の腹の上の「金」の字はまるで小学一年生の書いた文字のような出来映えだったのだ。

違う!。想ってたのと違う!。こんなはずじゃなかったのに…。
急いで描き直そうとも考えたが、すぐそこまで出番が迫っている。時間がない。

「じゃ、よろしくお願いしま〜す」

無情にも私を見捨てるようにメイクさんは楽屋を去っていった。仕方なくその日、私はその残念な姿のまま舞台に上がったのだった。

後で聞くところによれば、照明の具合で私の腹の上に描かれたそれが「金」の文字であるようには見えなかったとのこと。ほっと胸をなで下ろしただが、これに懲りて以後体のペインティングはメイクさんに任せようと思ったのだった。

そして本日12公演目の舞台裏。ラストシーンの出番を前に、金の塗料と筆をもって楽屋を訪れたメイクさんにこう言った。

「やっぱり、金太郎やめます…」

地雷ワード「やっぱり」パ裂。

というわけで、ここまでの成績…
積算上演日数:428日(前日比 +1日)
終演まで:387日(前日比 ±0日)
終演見込み日:2012年3月3日(前日比 +1日)

Posted: 2月 10th, 2011
Categories: パ日誌
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