「パ」日誌メントについて

これは一体どういう”罰”なのか…。

この作品を購入する人が現れることで、
一年間にわたり私は「パ」という音節を口にできなくなってしまうのだ。

24時間、365日、その状態を維持し続けることが、
耳で聴くことのできないヴォイス・「パ」フォーマンスとなるだろう。
潜在的に一年間続けられる「パ」フォーマンスが顕在化するのは、
ミスコミュニケーションやディスコミュニケーションといった現象が生じる瞬間だけである。

正直、いま自分の身に何が起ころうとしているのかわからない。
だからこれから起こる出来事を日々、日誌として記録しよう。
そしてそれを”「パ」日誌”と名付けよう。

“「パ」日誌メント”
聴くことのできない一年間のヴィオス・「パ」フォーマンス、開演間近開演中
2010年10月 山川冬樹


誓約書

誓約書(クリックで拡大)

誓約書
“私、山川冬樹は『「パ」日誌メント』の販売にあたり、以下の事項を厳守することをここに誓う。

  1. 2011年1月1日より2011年12月31日までの期間、私の発声する全ての「パ」を金1,000,000円にて貴殿に譲渡する。尚、契約期間中、本権利は貴殿以外には譲渡できない。
  2. 万一、貴殿の許可なく私が「パ」を発声した場合は、「パ」一回の発声につき、契約期間を一日延長することでその賠償責任とする。
  3. 本誓約の遵守状況については、blog(www.pa-nisshi.net)にて随時公開することでその報告とする。尚、blogにて公開されたその報告は、本契約終了時に書籍(以下、『「パ」日誌』という)としてまとめ、貴殿に呈する。
  4. 『「パ」日誌』の発行は一冊のみとし、その所有権は貴殿に、著作権は山川冬樹にあるものとする。

『「パ」日誌メント』詳細

  1. 2011年1月1日より2011年12月31日までの期間に山川冬樹が発声する「パ」
  2. 本誓約書 一通
  3. 『「パ」日誌』 一冊
  4. 「パ」を発声する山川冬樹の肖像写真 一点
  5. アーティスト・ステートメント 一通

平成22年10月26日 山川冬樹
以上


「パ」を発声する山川冬樹(クリックで拡大)

領収書(クリックで拡大)

作品解説

山川冬樹は「声」をテーマにしているホーメイ歌手/パフォーマンスアーティスト/美術家である。彼の多様な活動は、国内外のライブハウス、舞台、美術館とさまざま場においておこなわれている。その中でも今回発表された作品『「パ」日誌メント』は、山川の新しい挑戦だと言えるだろう。

この作品は、山川の発する「パ」という音声を「売る」ことによって始まる。今まで不特定多数の観客に対し表現活動をおこなっていた山川が、ある一人のコレクターと契約を結び、一年間「パ」という音節を発声できない不自由な状況に身をおくこと。ここには美術作品を売買するアーティストとコレクターの関係や、マーケット中心に動く現在のアート界に対する山川独特の解釈と批評が込められているのだ。そして山川はこの一年間を当ブログにおいて日々記述することで、アーティストとコレクターという一対一の閉じた関係性を開放し、誰もが鑑賞することの出来る「パ」フォーマンスに変容させようと試みる。

『「パ」日誌メント』は深い洞察に基づく作品の売買を介したパフォーマンス作品であり、一年間にわたり私たちはこのブログで山川の芸術活動に対する思索と実践を鑑賞することになるのだ。

窪田研二
インディペンデントキュレーター