05/01/2011/WED:五日目
昼:コンビニおにぎり(明太子)
夕:カレーライス
深夜:ラーメン、角煮丼
映画「WE DON`T CARE about music anyway」の公開を記念して、渋谷O-nestでライブイベントが開催された。私は、あの日本を代表するハードコアバンド「GAUZE」のドラマーであるHIKOさん、閃光と爆音ノイズを放つ蛍光灯「オプトロン」の考案者にして演奏者の伊東篤宏さんらとトリオでセッション。この組み合わせでやってくれと言われることは、「死んでくれ」と言われているのと同じようなものだ。二人の音はとにかく「容赦がない」。ライブ当日は演奏しに行くというより、処刑場に向かうような気分である。映画の中にもHIKOさんと私の地獄絵図のような演奏シーンがあるが、この日のライブも壮絶を極めた。発声器官というちっぽけな肉の管で、二人のあの音と対決しなければならないのである。過剰な絶叫のせいで、今もなんだか喉が血生臭い味がする。
私の中には時々自分でも恐ろしくなるような、得たいの知れぬ破壊衝動が潜んでいる。それはネガティブでもポジティブもない、ただのエネルギーで、ライブではそういう破壊衝動を声にして放出しているのだと思う。だから、私の発する声が、どんな断末魔のような絶叫でも、耳を一時的に難聴にしてしまうような攻撃的な鳴き声でも、それを観る人がネガティブなものとして受け取るか、ポジティブなものとして受け取るかは、私が決めることではないのだと思う。さらに、このエネルギーはいわゆる「感情」のエネルギーとも少し違う気がしている。だから、その破壊衝動が怒りのようなものとして特定の個人に向くこともない。しかしそれでも、ちょうど稲妻が落雷しようと放電の対象を求めるように、私の破壊衝動は具体的な破壊の対象を強く求めるのだ。そのとき犠牲になるのは、モノか、自分自身である。外に向いた場合はモノが壊れる。その際にモノとしての自分の体が一緒に壊れて血が出たりすることもある。内に向いた場合は、身体が耐えかねて、心臓が停まったり、失神してしまったりする。
この日の演奏は40分くらいだったか。クライマックスに達し、演奏が終わる予感が漂いはじめたころ、私は五十音から半濁音の列を順に叫ぼうと思った。ただし最初の一音だけは空の叫びとして。
「 !」「ピ!」「プ!」「ペ!」「ポ!」
「 !」「ピ!」「プ!」「ペ!」「ポ!」
「 !」「ピ!」「プ!」「ペ!」「ポ!」
HIKOさん、伊東さんが、音を出すのをやめて、私をステージに残して退場していく。私は続ける。
「 !」「ピ!」「プ!」「ペ!」「ポ!」
「 !」「ピ!」「プ!」「ペ!」「ポ!」
私の中で渦巻く破壊衝動が破壊の対象を探している…。
「 !」「ピ!」「プ!」「ペ!」「ポ!」
見つけた。そして、落雷。
「パッ!!!!」
大当たり。
地雷ワード、パ裂。1.”パ”(音節)。
これは明らかに口が滑ったのとは違うだろう。しかし、意図的に言ったわけでもない。
「衝動的に言ってしまった」という表現が一番しっくり来る気がする。
演奏が終わると、嬉しいことにファッション・デザイナーの三原君と、その「パ」ートナーのひろみちゃんが観に来てくれていて、片付けをしている私のところへ会いにきてくれた。三原君とは多摩美の同期なのだが、2009年、彼のパリコレクションでのショーでは、MIHARAYASUHIROのスーツと靴を身につけて「パ」フォーマンスさせてもらったことがある。以来そのときの靴は愛用していて、ステージでは必ず履いていたのだが、「パ」フォーマンスでシンバルを蹴りまくるあまりボロボロになり、もはや見るも無惨な有様になっていた。
「ごめん、パリコレのときにもらった靴、こんなになっちゃんだ…」
地雷ワード、パ破。2.”パリコレ”。
そして片付けを終え、肩の荷が降りたことにほっとしながら、O-nestのバーカウンターでドリンクを飲みながら伊東さんと歓談中…。
「もう一杯もらってきまーす」
地雷ワード、パ破。3.”もう一杯”。
そして、その直後…。この日にもやはり地雷を踏みまくっていることに落胆して…。
「やっぱり、気が抜けたときに出ちゃうんですよね…」
地雷ワード、パ破。4.”やっぱり”。
そしてO-nestを後にし、「パ」ートナーと一緒に車を停めていた「パ」ーキングへ。ふと見ると後ろのタイヤが「パ」ンクしているではないか。釘を踏んだようだ。ははーん、”「パ」ンク”か…その手には乗らないぞ。しかし走れるだろうか…。まだ完全には空気は抜けておらず、短距離なら走れそうだったので、なんとか近くのガソリンスタンドまで行って、みてもらうことにした。
そしてガソリンスタンド。口が裂けても「パンク」という単語は口にしまいと、心の帯を締め直して車を降り、係員相手に会話する。
私:「タイヤの空気が抜けているんですけど…直していただけますか?…」
店員:「パンクですか?」
私:「ええ、そうなんです。タイヤの空気が抜けているんです…」。
15分くらいで直せるので車を降りて待っていてくれという。あぁ、そんなに早く直してくれるんだと胸をなで下ろし、車内の「パ」ートナーに声をかけた…。
「パンク直してくれるって!降りてー」
地雷ワード、パ破。5.”パンク”。
この時点での積算総上演日数:380日+5日(賠償分)=385日。
「パ」フォーマンス終了まで:385日−5日(経過分)=380日。
この時点での見込み終演日:2012年1月20日
いままで地雷を踏まなかったのは元日のたった一日だけ…。まずは二勝目を目指さなければ。