29/01/2011/SAT:二十九日目

昼:赤飯弁当
夜:つけめん

『金閣寺』初日。無事、幕が開けた。

この日、客席に男性は一人もいなかったのではないか。カーテンコールで会場の照明が入り、総立ちのスタンディング・オーベーションとなった客席の様子が露になったとき、会場を埋め尽くしているのが100「パ」ーセント女性だったことには本当に驚愕した。ほとんどが主演の森田剛さんの熱狂的なファンの方々であるようだ。客席からスタンディング・オベーションをもらった経験は今までに何度かある。しかし明らかにこれはその感じとは違った。むしろ学校の朝礼の風景に似ていると思った。彼女たちの間ではカーテンコールでの起立が一つのマナーとして共有されているかのようだった。

「きゃ~~~っ!ごうく~ん!」

突如として飛び交う黄色い歓声。横浜公演(S席8,500円)だけで1300席×16公演分=20,800枚、地方公演(S席9,500円)も含めれば約44,000枚ものチケットが即日完売になったと聞いたとき、にわかには信じられなかったのだが、なるほどこういうことだったのか…。ここで経済を動かしているのは、芸術の力などではなく、恋愛の力だったのだ。

私は戸惑いながらも舞台から礼をした。しかし私は何に向かって礼をしたのだろう。

ちなみに私は『「パ」日誌メント』のチラシを全公演、全席分を印刷して折り込ませてもらっている。35,000人のうち、どれだけの人がこの作品を発見してくれるか分からない。カーテンコールの様子から察するに、恋は盲目と言うから、私のような者のチラシなど誰の目にもとまらずほとんどがゴミ箱行きだろう。しかし、一月六日の日誌にも記した通り、私は三島由紀夫の言葉をねじ曲げてでも自分の台詞から「パ」を排除した。私が舞台で『金閣寺』のキャストとして存在するときも、当然『「パ」日誌メント』の「パ」フォーマンスは続けられている。つまり、『金閣寺』を観劇する44,000人すべての観客が、それと知らずに『「パ」日誌メント』を観劇することになるのだ。劇場の入り口で、すべての観客に渡された私の質素な折り込みチラシは、そのことをささやかに告げている。

公演終了後はロビーにて簡単な祝賀会が催された。神奈川芸術劇場の館長の挨拶で乾杯の音頭がとられた。

「乾杯!」

乾杯の唱和の中、私一人だけ「カンペ~!」と中国語風に訛った発音で叫びながらグラスを掲げ、出演者の方々と舞台の開幕を祝う。しかし私は午後10時から渋谷のユーロスペースでトークショーに参加する予定があったので、早々に歓談を切り上げて会場を後にする。帰り支度をしていると、制作の毛利さんが紹介したい方がいるとのことで行ってみると、映画監督の行定勲さんだった。初対面の方とご挨拶をするのはやはりほんの少し緊張するものだ。その微妙な緊張感が私の「パ」への予防線を緩くしたのだろう。丁度昨晩『金閣寺』のパンフレットに掲載されている宮本亜門さんと行定勲さんの対談を読んだばかりだった私は思わず口を滑らせてしまう。

私:「はじめまして…、あ、パンフレットの対談、拝見しました!」

地雷ワード、”パンフレット”、パ裂。

私:「あっ、いっちゃった…」

思わず、苦虫を噛み潰すような顔をしてしまう私。

行定監督:「えっ何をですか?あぁ、”パ”ね、ははは」

行定さんは誰からか既に『「パ」日誌メント』のことを聞いているようだった。変な挨拶になってしまったことが胸にひっかかりつつも、神奈川芸術劇場を後にして、車で高速道路を飛ばす。ユーロスペースで予定されていたトークショーとは、私も出演している映画「We don`t care about music anyway…」の上映にあたって催されたものだった。参加者は監督のガスパールさん、チェリストの坂本弘道さん、音楽監督のノアさん、私の四人。

どうしてもトークの中では「パフォーマンス」という単語を使う必要が出てくるのだが。そこで私は、監督がフランス人であることから、「パフォーマンス」を、フランス語風に訛らせて「ペルフォーマンス」と発音するようにしていた。しかし公演の疲れが祟ってか、話がのってきた所でその作戦も空しく、「パフォーマンス」と口を滑らせてしまう。

地雷ワード、”パフォーマンス”、パ裂。

それに加えて、今までも散々パ裂させてきた地雷ワード、”やっぱり”もその直後にパ裂。

トークショーのお客さんの中には、この『「パ」日誌メント』のことを既に知っている方も多かったようで、これらの「パ」裂への反応が良く、地雷の踏みごたえがあって嬉しかった。

ここまでの成績…
積算上演日数:421日(前日比 +3日)
終演まで:392日(前日比 +2日)
終演見込み日:2012年2月25日(前日比 +3日)

Posted: 1月 29th, 2011
Categories: パ日誌
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