23/01/2011/SUN:二十三日目

昼:おにぎり(えびマヨ、とりめし)
夜:ネギ塩カルビ、プチトマト、たまご焼き、ほうれん草のごまあえ、コロッケ。野菜の酢もの、柴漬け、梅干し、白米

神奈川芸術劇場のホールは、面積、横幅こそさほどでもないのだが、天井高、舞台奥行きともに30m近くもあり、その空間に立つと最新鋭の設備を備えた大きな谷の深淵にいるようだ。役者たちがその谷底でじたばたと芝居の稽古をしているの見ていると、水槽の中で泳ぐめだかたちを眺めているような気分になってくる。

『金閣寺』では私が上空に吊られるシーンがあるのだが、今日はそのテスト。「ハーネス」と呼ばれるオムツのような器具を装着し、舞台真上に設置された仮設通路へとよじ上り、そこからワイヤーで吊られながら降りていく。

絶対に谷底へと落下することがないよう、しっかりと安全確認をして、舞台監督やスタッフのことを信頼しているつもりでも、いざ吊られてみると自分の中に高所への恐れという本能が棲んでいることを思い知らされる。たとえ舞台の構成員である「キャスト」としての私が、吊られることを「YES」としていても、いざ吊られてみると、本当の私は「NO」と言っていたということを、全身の細胞が知らせてくるのである。地球上のあらゆるものがこの重力という絶対的な力に服従しながら生きている。私の身体がモノとして宙吊りにされようとするとき、私の体中の細胞は、「演劇」という作為がこの「重力」という絶対的な摂理に反抗しようとしていることへの罪悪感でざわめくのだ。私の「恐れ」とは本能的なものであると同時に、この罪悪に与えられるかも知れない罰への恐れでもあるのだろう。この恐れを根本的に超克する方法は、「絶対に落ちない」と自分を騙して本能を麻痺させるか、「落ちて死んでも本望」と覚悟を決めるかの、どちらかしかないのだ。

ふと昨年末に観たシルクドソレイユ『ZED』のことを思い出す。絢爛豪華な衣装を身にまとい、驚くべき技術で鳥のように舞台上空を舞い廻る「パ」フォーマーたち…。そのとき、思わず舞台上空に情けなく吊られた格好のまま口が滑った。

「やっぱりシルクドソレイユってすごいなぁ…」

地雷ワード、”やっぱり”、パ裂。

初日まで一週間を切り、現場はだんだん慌ただしくなってきている。その慌ただしさに飲まれるように、つい私も慌ただしい気持ちになってしまう。その後も音楽担当の福岡さんに電話しながら口が滑る。

「やっぱりねぇ、現場に来て音を合わせてみなきゃ分かんないですよ。」

またしても宿敵「やっぱり」である。

ここまでの成績…。
積算上演日数:414日(前日比 +2日)
終演まで:391日(前日比 +1日)
終演見込み日:2012年2月18日(前日比 +2日)

Posted: 1月 23rd, 2011
Categories: パ日誌
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