06/01/2011/THU:六日目

昼:サンドイッチ(ハンバーグ)
夜:鶏の唐揚げ、焼豚、白米、キリン一番搾り

実は新しくオープンする神奈川芸術劇場、通称”KAAT”の杮落しとして今月29日より上演される以下の演劇に出演させていただく。

『金閣寺』
原作/三島由紀夫
演出/宮本亜門
出演/森田剛、高岡蒼甫、大東俊介、中越典子、高橋長英、岡本麗、花王おさむ、大駱駝艦〈田村一行、湯山大一郎、若羽幸平、橋本まつり、小田直哉、加藤貴宏〉、岡田あがさ、三輪ひとみ、山川冬樹、瑳川哲朗

http://www.kaat.jp/pf/kinkakuji.html

私は一応”役者”としての出演ということになる。とはいえ物語の登場人物の役を与えられているわけではなく、主人公の内面が”人がた”に形象化された存在として出演する予定だ。人間の役ではないので当初台詞を言う予定はなかったのだが、稽古が進行していくうちに私にもほんのわずかだが台詞が与えられることになっていった。素晴らしい役者陣に混じって、役者でもない私が台詞を言わせていただくのは何とも恐縮である。しかし気がかりなのはそのことだけではなかった。

そう、例の「パ」のことである。もし、与えられた台詞の言葉の中に「パ」の音があったとしたら…。

しかしほんのわずかな台詞だし、まぁ、大丈夫だろう…。そう思い、年末に製本された完成台本をもらって私に割り当てられた台詞を確認してみると…あるではないか。見事に二カ所、「パ」の音が。私はまた頭を抱えた。「パ」という音節の、人を小馬鹿にしたような響きが、何とも憎たらしく感じられるのはこんな時である。

私は数日思い悩んだ。宮本亜門さんに直接台詞の変更をお願いしてみようとも思ったが、この時期の演出家というのは、ただでさえ作品のことで頭がいっ「パ」いで、「パ」ンク寸前の状態であるものだ。出演者の一人が「実は”パ”と言えないから台詞を変えてくれ」なんて訳の分からないことを言いだしたら、それこそ発狂してしまうのではないか…。まぁ、発狂は大袈裟だとしても、稽古場で100「パ」ーセント演出に全力投球している亜門さんの集中力を途切れさせたくないとの思いから、私は制作の方に事情を説明し、「パ」のつく単語を何とか別の単語に差し替えられないか相談していた。
これが昨年末までの経緯である。

そして、本日は年が「パ」けて私が参加する最初の稽古。

稽古のときは、毎回まず台本を開きながら、新しく出た台詞の変更点を、一字一句出演者全員で確認していくことからはじまるのだが、そこで私の問題の台詞のところへ行き着いた。ぎくりとする私。亜門さんが言った。

亜門さん:「山川さん、ここは”一般の”ではなく、今日のところは”普通の”で行きましょう。あの事言っていいですか?」
私:「あ…あっ、は、はい!」
亜門さん:「皆さん、驚かないでください。世の中には色んな方がいらしゃいます。山川さんはなんと自分が発する”パ”という音を売られたんです。だから今年は一切”パ”と言えなくなるそうです!」
出演者一同:「え~~~~~っ!!!!」

目を丸くする共演者の皆さん。人がこんなに驚く顔を見たのは久しぶりだと思った。「いくらで売ったんですか?」「誰が買ったんですか?」「言ってしまった場合どうなるんですか?」と矢継ぎ早に様々な質問が飛び交い、それに答える度にどよめく稽古場。

亜門さん:「そういう訳で、これからどんどん山川さんに”パ”と言わせてやりましょう!(笑)」
私:「すっ…すいません!ご迷惑おかけします。」恐縮する私。

問題の箇所は変更させていただけることになりそうだ。二カ所ある「パ」の内のもう一カ所は、「開けっぱなしにして」という言葉を「開けはなして」に変更すればよいので、そもそもあまり大きな問題にならなかった。私の一身上の都合が、私だけの問題に終わらず、否が応でも周りを巻き込んでいってしまう。周囲の方々には頭が下がる想いである。

しかし、この『「パ」日誌メント』というプロジェクトが「パ」フォーマンスであるならば、『金閣寺』の舞台に立ったとき、私は「パ」フォーマンスしながらパフォーマンスしていることになる。その時の私は『金閣寺』に出演するパフォーマーであると同時に、「パ」を発声しない『「パ」日誌メント』のパフォーマーでもあるからだ。そこでは、二つの「パ」フォーマンスが入れ子のような形で同時に演じられるという、不思議な状態が生じることになる。

稽古終了後は、音楽打合せと、「パ」ンフレット掲載用のインタビューがあった。そして、この日も地雷を踏みまくったのだった…。私が地雷を踏んで頭を抱えるのを見て「やったー!」とバンザイの格好で歓喜する亜門さん。明るい稽古場である。しかし、私は地雷がパ裂する度に憂鬱になるのだった。

さて、以下が本日踏んでしまった地雷ワード。

打合せ時:①やっぱり、②ひっぱる
インタビュー時:③パルコ、④パイプ、⑤パーソナリティー

この時点での積算総上演日数:385日+5日(賠償分)=390日。
「パ」フォーマンス終了まで:390日-6日(経過分)=384日。
この時点での見込み終演日:2012年1月25日

Posted: 1月 6th, 2011
Categories: パ日誌
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