02/01/2011/SUN:二日目

未明深夜:ペヤングソースやきそば、キリン一番搾り。
昼:フォー、サラダ。
夜:すき焼き、白米、雑煮、マンゴープリン。

開演から二日目。ある程度覚悟はしていたものの、「パ」を口にできぬのはなかなかつらい。いや、正確に言うならば、口にできぬことそのものよりも、口にしてしまうかもしれぬ恐怖を抱き続けながら生活するのがつらいのだろう。うっかり口が滑ってしまうことを恐れて、いかなる言葉をも発することが躊躇され、気づけばおのずと無口になっている。端からみるとそれが不機嫌に見えるようである。いや、もしかしたらその無口さが不機嫌に見えるだけでなく、この不自由な状態を生き続けなければならぬことに、私は確かに苛立っていて、それが無意識に顔の表情や振る舞いに現れているのかもしれない。無口になっている私の中で、「パ」という聴覚イメージが、まるで風船のようにパンパンに膨んでいる。そのパンパンの風船が、いつ何時破裂してしまうのではないかと、私は自分自身に疑心暗鬼になっている。

そのせいもあるだろう。本日未明、大晦日から遠方の実家に帰省している「パ」ートナーと数時間にわたって電話で喧嘩をしてしまった。諍いの原因は他ならぬこの作品、”「パ」日誌メント”だった。

年明け前、私はウェブ版「パ」日誌のURLをメールで「パ」ートナーに伝えることを約束していた。にもかかわらず、元旦の午前零時きっかりにブログを開設するため、設置作業に追われていた私は、その約束をうっかり忘れてしまっていたのだ。URLを伝えることができたのは年が明けた20分後、「パ」ートナーからの新年の挨拶メールの返信という形でだった。そのことが「パ」ートナーを不機嫌にさせていた。

恋人同士の間にはありがちな、ごく些細な喧嘩の種かもしれない。しかし、この「パ」フォーマンスのとばっちりを食うのは、誰よりもまず彼女なのだ。私に起こる変化は、彼女の生活にも影響を及ぼさずにおかないだろう。この「パ」フォーマンスがはじまるその瞬間は、彼女にとっても心して向き合うべき重要な瞬間であり、だからこそ年越しの瞬間に対面せねばならぬ具体的な対象は、茶の間のテレビ画面でも、神社の拝殿でもなく、零時きっかりに更新されるhttp://pa-nisshi.netのトップページでなければならなかったのだ。彼女との約束を忘れてしまったことが、”うっかり”では済まされないのは当然だろう。

年が明けてから丸一日経って、日付が変わった一月二日未明、「パ」ートナーと電話で話した。「パ」と言えぬ苛立ちからか、私は自分の非を素直に認めるよりも、ブログの設置作業に追われて連絡する余裕がなかったことを言い訳がましく訴えた。そのことが「パ」ートナーをますます不機嫌にさせた。彼女が不機嫌になればなるほど、私も不機嫌になる。私の不機嫌さが、また一層彼女を不機嫌にさせる。そんな風に不機嫌の悪循環が続いていくうちに私は感情的になり、私の中の風船がついに「パ」という実音をたてて破裂してしまったのだ。

「だからぁ、「パ」日誌メントのブログ立ち上げるのに、こっちも精一杯だったんだよ! あぁっ…、パって言っちゃった…」

耳のうしろでサーッと血の気が引くのが聴こえた。沈黙…。

私は2011年に口にする全ての「パ」を1,000,000円で一人のコレクターに売ったのだ。だから、私が「パ」を口にすることは、事実上そのコレクターの所有物を盗んだことになるのだ。誓約書で誓約した通り、この盗みの賠償として、「パ」一回の発声につき一日ずつ契約期間が延びて行く。1.”「パ」日誌メントのブログ”、2.”精一杯”、3.”「パ」って言っちゃった”、計三回。つまり、この瞬間に契約期間が365日+3日(賠償分)=368日に延長されてしまったわけだ。

血の気が引いて冷静になったのだろうか、いつの間にか私のエゴはとけて、素直に自分の非を認められるようになっていた。私が素直になれば、彼女も素直になる。彼女は私のミスを責めていたわけではなかった。ただ、誰よりもこの「パ」フォーマンスに真摯に向き合おうとしているその気持ちを、尊重して欲しいと求めていただけだった。彼女もまた、私に与えられたこの不条理な”罰”を、”「パ」ートナー”として共に引き受けようとしてくれていたのである。

私たちは改めて新年の挨拶を交わし電話を切った。私はペヤングソースやきそばを肴に、ビールを飲んで眠りについた。

これは一月二日未明の出来事である。この時点で、既に三回も「パ」を口にしてしまった自分の体たらくには溜め息をつくしかない。しかし、事もあろうかこの後、一月二日の午後にも、私は風船を破裂させてしまったのだ…。果たしてこの「パ」フォーマンスが終演を迎える日が来るのだろうかと、開演早々、真剣に悩み始めているところである。このことについては明日一月三日の日誌に記したい。

Posted: 1月 2nd, 2011
Categories: パ日誌
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