24/09/2011/SAT/二百二十三日目

午前6時35分にアムステルダムはスキポール空港に到着。

到着ゲートにSTEIMのスタッフ、エッシャーが迎えて来てくれていた。いろいろ問題があって、午後5時まで宿にチェックインできないというので、とりあえずSTEIMのオフィスへ。

早朝の薄明かりの中、エッシャーの運転するプジョーの助手席から街の景色を眺めながら、僕は会話の種を探していた。

海外で仕事をするときは大抵、空港まで現地スタッフが車で出迎えに来てくれるのだが、空港から目的地へと向かう道中はいつも車内にシーンとした空気が漂う。会話というものは、互いに打ち解けてはじめて弾むもので、初めて顔を合わせたばかりの、言葉も、生活スタイルも、文化的背景も異なる者同士が、打ち解けるプロセスなしに物理的に密接な関係に置かれながら黙っているという、この状況にはいつまで経っても慣れないものだ。

お互い会話の種を探すのだが、共通の話題といったら今回のフェスティバルのことくらいしか見当たらない。そこで、今回のイベントにあたり、日本からCOMBO PIANOの渡邊琢磨さんや、山本達久さん、中原昌也さんなどのアーティストも来ると聞いていたので、シーンとした空気に一石を投じるように言ってみた。

僕:「Three more artists are coming from Japan, right?」

オランダ入国から1時間も経たない内に、地雷ワード、「Japan」パ裂。
(※英語を話す際の「パ」裂ガイドラインについては、2011年7月20日の日誌を参照されたし)

僕は心の中で「しまった!」と日本語で叫んだ。それと同時に苦虫をかみつぶしたような表情をしてしまったのだが、車の進行方向を見つめるエッシャーはそれに気づいていないようだった。

STEIMのオフィスに到着。STEIMとは、アムステルダムにある電子音楽・電子楽器にかかわる自主運営の研究施設で、今回、僕を招いてくれたのもSTEIMである。オフィスとはいってもギークたちが集うアパートメントといった風情で、中々居心地の良さそうのなところだ。エッシャーが入れてくれたコーヒーをすすりながら、窓の外を見ると、道路に面した運河に何層ものボートハウスが停泊していた。台風が来たときはどうするのだろう?と思ったが、オランダには台風は来ないのだとか。ふとデスクの上を見ると、今回のイベント「Patterns+ Pleasure」のスケジュール表がある。あ、これ欲しい、と僕は思った。

僕:「Can I have this paper?」

地雷ワード、「paper」パ裂。オランダ入国から2時間も経たない内に2回目のパ裂である。

バイリンガルの人なら分かると思うが、英語を話していると、自然に身振りもガイジンっぽくなってくる。話す言語が変わると、不思議なことにそれに付随してキャラも変わるのだ。思わず口を滑らせてしまったことに、僕は「Oh…」と言いながら、手を額にあてて首を振っていた。それを見て「いいけどそれオランダ語だよ…。ん?どうしたの?大丈夫?」というエッシャー。「い、いや、何でもない、大丈夫だよ」と答える僕。

宿にチェックインする午後5時までだいぶ時間があるので、時差ぼけを圧して散策に出かけた。ちょうどインディペンデントキュレーターの東谷隆司さんも、アムステルダムを訪れていると連絡があったのでカフェで合流。ブランチをとった後に、一緒にギャラリーde appleで展覧会を観る。東谷さんと別れ、広場のランプでスケボーに興じる地元のティーンをしばしぼーっと眺めてから、ゴッホ美術館にてゴッホを鑑賞。そしてその後、現代美術館、Temporary stedelijkへ行ったときのことである。

チケット販売のカウンターで、売り子の女の子に向かって…

僕「One person please」

地雷ワード、「person」パ裂。一日目にして3度目の「パ」裂である。

Temporary stedelijkの展示を観終えて外に出ると、道路沿いの運河の水面には夕日が反射していた。そろそろ宿にチェックインできる頃だろう。僕は気持ちのよい道を選びながら宿へと歩き始めた。ボートの上で団らんしながら、運河をゆらゆら揺られていく家族たち…。岸でひなたぼっこをしているカモのつがい…。なんと長閑な街だろう。今の日本に漂う張りつめた空気をのことを思うと、まるで夢のようである。

宿の住所が示す場所へ行くと、そこはホテルではなく、住宅街の中のアパートメントだった。中期滞在する人の為の、いわゆるウィークリーマンションのような宿である。気の良い大家さん親子が迎えてくれて、どこから来たのかと訪ねるので、僕は先ほどの失敗を繰り返すまいと「Tokyoから来ました」と答えた。すると大家さんは少し悲しそうな顔をして、地震と原「パ」ツ事故へのお見舞いの言葉をかけてくれた。さすがに風車の国なだけあって、オランダは風力発電は世界一なのだそうだ。オランダにある原「パ」ツは、ボルセラ原「パ」ツの一基のみとのことだった。

時差ぼけと旅の疲れのため、早めに床に入り、就寝。今日は「パ」裂しまくった一日だった。

ここまでの成績…。
積算上演日数:852(+3)
終演まで:585(+2)
終演見込み日:2013年4月30日(+3)

Posted: 9月 24th, 2011
Categories: パ日誌
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