20/07/2011/WED/百五十七日目

早朝、目が覚めて薄暗いうちにセントラルパークへ散歩に出かけた。ニューヨークについてから、まだ誰とも英語で会話していない。外国へ来たとき、僕にとって切実な問題となってくるのは、やはり「パ」のことである。

「パ」日誌メントを初めてかれこれ7ヶ月半になるが、だいぶ脳が鍛えられたのか、日本語を話すときはかなりの確率で「パ」裂を避けられるようになってきた。しかし英語での会話は日本語での会話よりも「パ」が出現する頻度──すなわち地雷の数──がずっと多くなる。果たして上手く「パ」を避けながら、英語圏できちんとしたコミュニケーションをとれるのだろうか?例えば「What did you do this morning?」と聞かれても、「I took a walk in Central Park」と答えられず、「Where are you from?」と聞かれても、「Japan」と自分の母国名すら口にすることができない。また「On which stage are you appearing?」と聞かれても「The temple of the golden pavillion」と自分の出演する舞台名を言うこともできない。

もう一つ問題になってくるのが、英語には【pʌ】、【pə】、【pæ】、【pa】など、日本語の【パ】という音にあたる発音が何種類もあるということだ。この厄介な「パ」フォーマンスのタイトル『「パ」日誌メント』は、英語の「punishment」という単語をもじって命名した訳だが、綴り的には「pu」で始まり、発音は【pʌ’niʃmənt】。「Japan【ʤəpæ’n】」の【pæ】や、「performance【pərfɔ’ːrməns】」よりは日本語の【パ】に近く聴こえるが、それでも【パ】≠【pʌ】である。また「お父さん」、つまりは「パパ」を意味する「papa」の発音は、面倒なことに、一つ目の【パ】と二つ目の【パ】の音が微妙に違うらしく、【pa’pə】もしくは【pə’pa】らしいのだ。

そこで一つのルールを設けることにした。ある英単語を日本語の外来語として輸入した場合に「パ」が含まれてくる場合は、【pʌ】も、【pə】も、【pæ】も、【pa】も、口にしたらすべてアウト。つまり「punishiment【pʌ’niʃmənt】」も、「Japan【ʤəpæ’n】」も、「papa【pə’pa】」も、「power【pa’uər】」もすべてアウトである。これは『「パ」日誌メント』終了まで(まったくいつのことやら分からないが…)一貫したルールとしたい。

そうと決まれば、やはりここは戦略として、積極的に「訛り」を活用しよう。日本語を話すときは「パ」の音節を「ピャ」と幼児風に訛らせることで「パ」裂を避けてきた訳だが、英語圏に特化した「訛り」の法則を考えてみる…。「Japan」は郷ひろみ風に「ジャペーァン!」、「Performance」はラテン男風に「ペルフォーマンス!」、「Power」はB-Boy風に「ポァワー!」、「papa」面倒なので「daddy」に言い換えて、「punishiment」はシャイな日本人風に、お茶を濁すような感じで「プニッシュメント」と発音しよう。その都度その訛らせ方に見合ったステレオタイプな人物像をイメージし、それを身体感覚として手がかりにしながら、【pʌ】、【pə】、【pæ】、【pa】を巧みに避けていくという戦略である。果たして上手く行くだろうか。

だんだんと辺りが明るくなってきた。セントラルパークを後にし、タイムズスクエアまで散歩の足を延ばした後、ホテルに戻りシャワーを浴びて、午後は劇場入り、場当たり稽古。劇場に入ったらほとんどが日本人スタッフなので、結局今日一日、英語らしい英語は「Hello」、「thanks」くらいしか言わず完封。

ここまでの成績:
積算上演日数:699(±0)
終演まで:498(-1)
終演見込み日:2012年11月29日(±0)

しかし「パ」日誌の更新が滞ったので(11/29〜12/1)、上演期間を3日間延長。
積算上演日数:702
終演まで:501
終演見込み日:2012年12月1日
(※通常なら3日延長した場合は12月2日になりますが、2012年が閏年だと気づいたので、この時点で調整します)

Posted: 7月 20th, 2011
Categories: パ日誌
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