19/06/2011/SUN/百二十六日目

福島県で震度3。

「パ」ートナーの実家から車で東京へと向かう。しかしこの日で上限1,000円のETC休日特別割引の適用が終了するとのことで、帰りの中央道はUターンラッシュ。異常なほどの大渋滞で車がまったく動かない。まずい…。日没の18時59分から、浅草橋のオルタナティブスペース、『浅草天才算数塾』で『発電部』の集まりがあるというのに、このままでは大幅に遅刻してしまうではないか…。

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『発電部』とは、芸大・美大のメディア系学科を拠点にして発足した、「私たちの、私たちによる、私たちのための電気」をつくろうという趣旨の部活動のような団体である。そもそもは5月15日に芸大取手キャンパスで催された芸大関係者と南相馬から避難してきた人々との交流会の中で、同じく芸大・美大で非常勤講師を勤める小町谷圭君と僕とで意気投合し、その後3331ARTS CYDでスタッフを勤める莇貴彦君が加わる形ではじまったものだった。「部」とはいっても、部費がかかるわけでもなく、部室があるわけでもない。今のところ組織としてはっきりした枠を持っているわけでもなく、発電の意志を持つ者が集ってダイナモを回せば、それが『発電部』といったゆるい形態になっている。

電気なくして作品が成立せず、「テクノロジー」が作家性の重要なアイデンティティとなっているメディアアーティストたちや、それを志す学生たちは、あの原「パ」ツ事故以降、もう電力問題を無視することはできないはずだ。芸大先端芸術表現科や多摩美の情報芸術コースといったメディア系学科で非常勤講師を勤める僕も、(僕がメディア・アーティストであるかはともかくとして)「パ」フォーマンスや作品には電気を使うし、「エレクトリック」であることが自分のアイデンティティとなっている。

3月26日の日誌にも書いたが、かくいう僕があの原「パ」ツ事故で思い知らされたのは、自分の表現が「いかに依存したくないものに依存させられて成立していたか」という現実だった。

首都圏の電気が地方の人々にリスクを押しつける形でつくられているというヒエラルキー構造…。

臭いものには蓋をしろとばかりに、何万年も放射能を発し続ける核廃棄物を未来に押しつけようとする無責任…。

そして原「パ」ツの技術がそもそも原爆からのスピンオフであるというその出自と、それゆえに原「パ」ツはいずれ日本が核武装するために維持・推進されなければならない、とする政治家たちの軍事的思想…。

「平等」「未来」「平和」…人類が何とか信じようとしてきたこれらのことばを、一石三鳥で汚してしまうものに、僕らは加担させられている。原「パ」ツに依存しながら生きるとき、汚染されるのは空気や土地や海や食べ物ばかりではない。そこではいつの間にか「理想」と呼ばれるものまでもが無惨に汚染されていくことを忘れてはならない。

芸術は理想を具体化してきた。芸術は精神的原理と物質的原理の完全な均衡を示す具体例であり、その存在によって、このような均衡が、神話やイデオロギーではなく、われわれの次元のなかに存在することのできる、ある種の現実だということを証明してきた。芸術は、人間の調和にたいする要求と、物質的なものと精神的なものの望ましい均衡の獲得をめざして、自分自身と自分の個性の内部で戦う覚悟とを表現してきた。
(アンドレイ・タルコフスキー「映像のポエジア」より)

タルコフスキーの言うことが本当ならば、僕は芸術のために使う電気には微塵も原「パ」ツで作られた電気を混入したくない。実際、震災直後の僕はストイックに東電の電気を使ってライブをすることを自らに禁じていたのだが、それは結果的に自分を精神的に追い込むことになり、情けなくも4月23日と24日の日誌に書いたような自己崩壊を招いてしまったのだった。

せめて電気を選びたい。自分の納得できる電気を使って芸術活動を行いたい。しかし僕らには電気を選ぶ権利すら与えられていない。そんなジレンマを抱えながら、南相馬から避難してきた人々を前にホーメイの演奏を披露した後にふと肩の力が抜けて思ったのだった。

「そうだ、もう、みんなで発電しよう…」

個人レベルで発電できる電力など、たかが知れているかも知れない。しかしそれでも自分が依存したくないものから少しでもインディペンデントであり続けるために、そして「理想」と呼ばれるものが自分の中で完全に汚されてしまわないために、自らの手でダイナモを回して電気をつくるのだ。そのちいさなダイナモの回転は、ガンジーが糸車の回転に込めた大いなる自立の精神を受け継ぐことになるだろう。なぜなら『発電部』とは、ちっぽけな個人ひとりひとりによる、ちいさな「独立運動」だからである。

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結局、通常4時間で着くところが7時間以上もかかってしまい、『浅草天才算数塾』に到着したのは、『発電部』の会合が開始してから2時間以上も過ぎた9時すぎだった。ブレーカーを落とし、東京電力からの電気を打ち切った状態で、20名ほどの男女が所狭しと座敷に座りこみ、おのおの色々な方法で発電したり、電力問題について語り合っている。怪しくも楽しい会合だった…。

そして今日は昨日に引き続き完封。

ここまでの成績…
積算上演日数:611(±0)
終演まで:442(-1)
終演見込み日:2012年9月3日(±0)

しかし「パ」日誌の更新が滞ったため(8/30、31)、罰則により上演期間を2日延長。
積算上演日数:613
終演まで:444
終演見込み日:2012年9月5日

Posted: 6月 19th, 2011
Categories: パ日誌
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