26/03/2011/SAT/八十五日目

未明、茨城で震度3。早朝、茨城で震度3、宮城で震度3。朝、岩手で震度3。夕方、茨城で震度3。夜、宮城で震度4。深夜、茨城で震度4、福島で震度4。

原「パ」ツ事故以来、壁に設置された小さな二本の溝の暗闇に、さまざまなものが見えるようになってきた。

今まで私は自分がインディペンデントなスタンスで活動していることにささやかなプライドを持っていた。例え得られるお金が少なくとも、何者にも縛られず、インディペンデントな立ち位置で、自由に表現活動をしていることが私にはとても価値のあることだった。しかし自分の活動で消費してきた電力が、一部の地域に住む人々にリスクを押し付ける形で作られていたということ、そしてその電力をつくる原「パ」ツが、他ならぬ冷戦の負の遺産であり、今現在もさまざまな利権が絡んでいるということ…。自分の活動がインディペンデントでもなんでもなく、ディペンドしたくないものにディペンドしながら成立していたという事実と、そのことに無自覚だった自分自身に、私は今、愕然としている。

さらに私に重くのしかかってくるのは、”エレクトリック”であることが、自分の「パ」フォーマンスにおける重要なアイデンティティとなっていたことである。例えば骨伝導マイクを使った「パ」フォーマンスでは、鼻骨に取り付けたコンタクトマイクを、真空管ギターアンプに入力し、その状態で口を閉じたままホーメイを歌い、頭蓋骨に響く振動を増幅する。本場トゥバ共和国のホーメイがアコースティックギターなら、日本の都市部で生まれた骨伝導マイクによる私のホーメイはエレキギターに例えられるだろう。ギターはあくまで楽器だが、ここで電気化されているのは楽器でなく私の身体である。
また、電子聴診器を使った「パ」フォーマンスでは、心臓の鼓動を白熱灯の明滅と同期させてみせるのだが、これは150Wの白熱球をいくつも使うので相当な電力を消費する。ならばLEDで代用して節電すれば良いといわれるかも知れないが、心臓の鼓動と同期するのは、やはり白熱球のフィラメントが燃えることによって生じる火の光でなければならないのだ。ここでは大量の電力が熱とともに消費されることが、「パ」フォーマンスで発せられるエネルギーの強さに直結しているのである。命の鼓動が、電流の波に変換され、火の明滅として視覚化される…。原「パ」ツでつくられる電力が、私の命と確かに繋がっていたことを、私はあの事故によって痛烈に思い知らされたのだった。

24日の日誌に書いた作業員の被爆が、私にとってあれほどまでに衝撃的だったのは、自分がこのように身体に直接プラグインするような形で電気を扱ってきたからだろう。これらの「パ」フォーマンスが上演されるとき、送電線と送電施設を介して私の身体と福島の原「パ」ツとは物理的に繋がっていた。だからだろう、何処の誰かも分からない作業員の被爆した足の皮膚が、自分の身体の皮膚とまるで地続きであるかのように感じられ、ヒリヒリとした痛覚まで伝染して感じられたのは。

そういう訳で、今の私は原「パ」ツでつくられた電気を使って「パ」フォーマンスすることに抵抗を感じている。確かに芸術というのは犠牲の上に成り立つものなのかも知れない。しかし自分の表現活動によって払われる犠牲の重みを、私はまだ受け止めきれないでいる。電気は私のアイデンティティであり、命であったのだ。それが誰かの身体を、誰かの生活を、誰かの故郷を破壊しているというこの因果を、いったいどう受け止めたらいいのだろう。私はこのことに自分なりに落とし前がつくまで、電力を使った「パ」フォーマンスはできないだろう。自粛しようということでも、節電しようということでもなくて、ただ個人的な感情が自らを許さないのである。

そんな折に、面白いイベントの出演依頼をいただいた。

「ザ・自家発電ナイト」 @恵比寿 TRAUMARIS

回ることで人工発電するポールダンスマシンをアーティスト・宇治野宗輝、人力発電のエキスパート・板野尚吾の技術協力により開発、夢の自給自足ライフを実現した孤高の覆面ダンサー、<メガネ>が、全出演者のために、小型アンプとラジカセをフル稼働!
身体1つで表現できるダンサーやパフォーマンスアーティスト、音楽家たちに、飛び入り参加もふくめて出演を募り、電気のありがたみとライヴの底力を<カラダをはって>伝える、美しい労働の一日に乞うご期待!

ポールダンサーの「メガネ」は以前からの知り合いなのだが、計画停電が実施され、節電が叫ばれるこのご時世にあって「自家発電」とは、実にポジティブなコンセプトだと思った。ただ「メガネ」の発電する電力はとても非力でラジカセ1個を鳴らすのが精一杯だという。前述の骨伝導マイクや、心臓の鼓動を使った「パ」フォーマンスは電力的に無理とのこと。そこで私は久しぶりにアコースティックギターを引っぱりだしてきて、弾き語りを披露することにした。ホーメイだけはマイクを通してラジカセで鳴らして拡声しながら。

しかしTRAUMARISが六本木から恵比寿へ移転してから訪れたことがなかったので、ラジカセの出せるレベルの音量が、TRAUMARISの空間で果たしてPAとして事足りるのだろうかと不安だった。そこでTRAUMARISの住吉さんに電話する。空間の広さや天井高、壁や床の材質、それから大体の集客人数が分かれば、ある程度ラジカセの音が空間でどんな風に響くか事前にイメージできるのだ。

プルルルル…プルルルル…(電話の呼び出し音)

住吉さん:「はい、もしもし」

私:「あ、もしもしー、山川です。今日よろしくお願いします」

住吉さん:「あぁ、冬樹君!よろしくー!」

私:「ところでトラウマリスの空間について伺いたいんですけど、キャパってどれくらいですかね、っていうか言っちゃった…」

地雷ワード、「キャパ」、パ裂。

ここまでの成績…
積算上演日数:529日(+1)
終演まで:444日(±0)
終演見込み日:2012年6月12日(+1)

Posted: 3月 26th, 2011
Categories: パ日誌
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